Paddlers Coffee(幡ヶ谷)/自転車修理まで手伝ってくれてありがとう

中野通りから甲州街道を越えて南、パドラーズに行くには最初の信号を左折せねばならない。だがその日、私は左折しそこなったんである。うっかり直進してしまったのならまだマシだったのだが、いや、左折しようとはしたよ、が、コケたんである。やっちまったよ諸君。溝に車輪が引っかかったのだ。

もちろん、私は沈み行く船から我先に脱出するような臆病者ではない。ペダルにつけたトウクリップ(足がペダルから離れないように固定して漕ぎやすくする仕掛け)は、いざという時、船と運命を共にする艦長としての覚悟のあらわれである。

それでは思い切っていってみましょう、むしろ自分がクッションになって自転車を守る勢いで、左側の舗道にドーンとね…めちゃめちゃ痛かったで〜す♡

笹塚のあの界隈の舗道は、自然岩のごとくゴツゴツした石のレンガを敷き詰めた美しいもので、たとえ雨がふって路面が濡れていてもグリップが効いて滑らないように出来ている。歩行者の安全と景観を両立させてさらに、ここでコケた方にはもれなく激痛をプレゼントという転倒者への気配りまでされているのだ。

笹塚近隣にお住まいのみなさま。安心してあの岩畳の上を歩いてくださいね。私が、自ら左半身を打ち付けて試して参りました結果、強度に問題はありませんでした。

さて、若いやさしい通りすがりの男性に手を貸してもらって立ち上がり、気を取り直して走行再開した私はすぐ異変に気付いた。自転車は確かに直進しているが身体が右を向いちゃっている。

こ、こ、これは、欽ちゃん走りじゃないか。

これ即ちハンドルが右に曲がってしまったということであるが、まあ目的地のパドラーズは目と鼻の先だし、着いたら治せばいいやと欽ちゃん走りを続けることにした。

「いやぁ、コケちゃいましてなあ(こんなのどってことないぜっというタフガイ感を演出する満面の笑顔で)」

ここは幡ヶ谷のパドラーズコーヒー、オレゴン州ポートランドのロースター、スタンプタウンの豆を扱う国内唯一のカフェ。

Paddlers Coffee
最寄駅/京王線 幡ヶ谷駅 徒歩5分
所在地/渋谷区西原2丁目26-5
電話/03-5738-7281
営業日/7:30~18:00 月曜定休
価格/本日のフレンチプレスコーヒー 500円~
焙煎/Stump Town(米国ポートランドで焙煎後空輸)
トイレ/ウォシュレット無 素朴な米国製のカントリー風(?)で清潔 広い
BGM/アナログレコード、70~80年代AOR等中心、素晴らしい音響
駐輪場/店前に10台くらいおける駐輪場あり
http://paddlerscoffee.com/

豆はすべてウォッシュトで焙煎は「ど浅」ではない。もう少し火を通してある。なんでも、スタンプタウン側との約束で鮮度のいい豆以外使ってはだめなんだそうで、焙煎三日以内のものだけポートランドからフェデックス機で送られてくる。

少量ずつ送られてくるおかげで、航空便の輸入手続きを頻繁にこなさなくてはならず、これが結構大変なんだそうだ。なんせ食品だものね、いろいろ検査も書類もあるんでしょう。

ただし、その努力の山梨県、いや、甲斐は大きい(小ネタ)。甲斐がカイデーである(小ネタ)。やっぱり新鮮!フレンチプレスで供されるそのコーヒーは少し深めにローストしてあるが苦くない。味は深くて酸味がとんがってない、あきない、サードウェーブ的な範疇にありつつもまろやかさがある。

そんなパドラーズの本日のコーヒー「エチオピア」をバリスタさんにお願いしながら、

「いやあまいった、ハンドル曲がっちゃいまして、これから直さなあかんのですわ。ちょっと軒先きで作業させてくださいね、すみません」

まあ、コケてもただでは起きんのよ。これもいい会話のきっかけってもんですわな。

「なんと!それは大変でしたね、でも、あ、そうだ、幸いなことに自転車のプロいますよ。バリスタAくん、彼メッセンジャーもやってるんです。ばっちりですよ」

おーこれはキタ、幸運、捨てる神あれば拾う亀有(小ネタ)。会話のきっかけに対する返事は予想を大幅に上回るストップ高、大盛り味噌汁お新香付きだったんである。でもって爽やかなイケメンAくん、スーパー手際よし。

「ちょっと見せてくださいね、あぁなるほど」

そもそも見立てからして速い。

「このネジを緩めさせてくださいね」

なぜ、なぜ、工具が数秒で出現する?
そしてちょちょいのちょい!ぱっ!見ている間にハイ出来上がり!

男前っ!

「前輪のブレーキシュー減ってますね。取り替えた方がいいですよ」

という有難いアドバイスまで頂いちゃって、こっちは感動で直立不動でございます。工賃おいくらですかって言いそうな私。まるで黄門さまに救っていただいた村人の気持ち。ほんとにありがとうございました。

なんでもAくん、メッセンジャー仕事の日は坂道だらけの都内を100キロ走るんですって。すごいですねえ。パドラーズのバリスタはペダラーズでもあったんである。

商店街からひょいと入った住宅街、樹齢50年の桜の大木に寄り添うように佇むパドラーズ。ログハウスみたいなウッディな内装のせいか、マランツのアンプとJBLのスピーカーのせいか、アナログレコードでならすのBGMの響がとても心地よい。マイケルフランクスとかえらい久々に聴いたよ。

「ここでなごめなければ一生どこでもなごめまい」

デーモン閣下にそう言わせたくなるほど完璧な空間で、優しいスタッフに自転車まで直してもらっちゃったっていうお話でした。

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