ミルクロール(新中野)/驚愕価格!まじめで美味しいパン屋さん

鍋屋横丁は十貫坂上のミルクロール。

なんという昭和初期な、いっそ大正デモクラシーなエノケンなる響きであろうか。こりゃロードバイクじゃないな。ハイカラさんが通るみたいな、前と後ろの車輪の大きさが違う自転車でギコギコ行けたら素敵、なんて思えるような、そんなノスタルジックな響きをもったこの店は、パン屋さんである。パンダさんではない。

ミルクロール
最寄駅/丸ノ内線 新中野駅 徒歩5分
所在地/中野区本町4-37-25
電話/03-3381-5541
営業日/11:00~19:00 日祝休
駐輪場/無 店前の舗道に数台おける程度
その他/イートインスペース無

こういう手合いはともすると昭和カルチャーを勘違いしたちょっとアニメ入った痛い女子が運営してたりすることがあるんだが、諸君におかれましては安心されよ、このお店、「溢れ出る母さんの愛情」って感じのおばちゃんやお姉さん方中心に(男性スタッフも奥におられます)賑々しく運営しておられる活気のある繁盛店だ。

みなさん懐かしい三角巾、だいたい4~5人体制で、明るく、忙しく、親切。ひょっとして環境系NPO団体?なんかの団体の婦人部?と勘ぐりたくなる在り様なんだが、開店前からの長蛇(ってほどでもないな、普通の蛇くらい)の列を構成する善男善女をみれば無駄な勘ぐりは無用であろう。

そういえば、同じ女性だらけのパン屋でもいろんなのあるよね。吉祥寺人気店「ダンディゾン」なんか華奢で小さな草食っぽい女性たちがみんな揃いの白ずくめでマスクに帽子をかぶって光量の少ない地下室の幻想的照明のなかで秩序だってキビキビ動いてる。

パンもまたしかり、神経質に整然と縦横揃えて綺麗に並べてある。そこはまるで宇宙船の中。初めて入ったときは、何らかの目的で捕獲された人類サンプルAの気分だった。

「麻酔から目が覚めた私は愕然とした。ここはいったいどこなんだ?ショッカー?でなければやつらは何星人なのか?」

みたいな、ね。

そこいくと、ミルクロールは随分違いますよ、というか名前の響きがダンディゾンとほぼ真逆。まず未知の高度な科学で重力をコントロールして空中に浮遊したりしてそうにない。地に足がついている。つきすぎてる。寧ろ生えてる。

そもそも朝10時台後半にここを通りかかることが多い私は気になっていたんだ。なんだろう、あの列は、と。

ミルクロールと書かれて半分以上閉まったままのシャッター、その前で毎朝並んでいる何人もの人々。ん…これは気になる。気になるけど開店前だし今日も素通りせざるを得ない、ということが10回以上あって半年後、先ごろついに営業中、要するに11時以降に通りかかったんである。い、い、いまだ!潜入開始!な、なんである。

では、先輩方に失礼のないように、僭越ながらこの新参者、初めて入店の栄誉を賜る。どちらさんもよござんすか、扉ガラッ、どうもこんにち…っむ、な、なんじゃごりゃ?なんじゃこのパン屋であんまりみかけない数字は!

コッペパン30? ミルクロール40? ストロベリーナッツ50? もしかして価格か?えー!背番号とかじゃないの?焼いた担当者さんみんな背番号あるとか、ああいううわあああ、安い、安いぞ、安めぐみ、値段も昭和初期かよ(昭和初期はちょっとオーバーでしたね)それにしても昭和末期のまま据え置いてじゃないだろうかって価格だ。

なるほど行列の原因はそれか。みればお客様方、我々より先輩のおっちゃんおばちゃんが多い。

「いつもお手頃価格で本当に助かりますわ」

的なことをおっしゃってるが、時折若者も彼らに混じって負けてない。

「安くね?」

てなことをおっしゃってますな。世代の交差点、佳きかな佳きかな。

あの日以来、重回転ですよ、英語でいうとヘビロテである。今日もキングズブレッド一斤220円とチョコロール55円(いっとくけど消費税込みの価格だからな)を買ってまいりました。合計275円。

あまりの安さに興奮さめやらぬ私は帰りの自転車の回転を止めることができずに、ほら、天才バカボンの本官さんが「逮捕するーっ!」って走り出すと手足ぐるぐるになっちゃうでしょ、あの症状を発し、中野通りを一気に北上、気が付いたら中野駅もこえてしまい、ブロードウェイのバージンガロでコーヒー飲んでこの文章を書いているんである。ミルクロールの衝撃がドミノ式に他店の売り上げもアップさせてしまったという、地域活性化のモデルケースであろう。

お味の話。価格に不釣り合いなほどうまいと思う。実直、真面目という言葉がよく似合う。そしてオーガニック。もちろんフランス語名称の高級パンダさんパン屋さんの、まあ例えば撤退しちゃったゴントランシェリエとかの、良質バターたっぷり感や、強い甘みや、外カリ中モチの強調などを求めてはならない。

滋味。極めてベーシック。ベーシックであることにこだわっている美味しさがある。妙に甘みを添加するでなく、変に媚びたふわふわパンでもなく、真面目でシンプルでしっかりした質感のパン。私は好きだな。

もうひとつの発見は、コーヒーの味をとてもよく引き立てるということだった。

このキングスブレッドという食パンをトーストし、高円寺のロースター、コーヒーアンプのケニアをお供に朝ごはんにしたら、両者のお互いの良さを引き出す影響力が凄かった。良いコーヒーは銘柄それぞれの油分、コクがあるものだが、ミルクロールのパンはそれをパンの味で遮ろうとはしない。邪魔せず上手にコーヒーのよさを引き出し自分は他の主張をしてくる。

お昼どきには近所の勤め人のみなさんもたくさん並ばれ、週明けは大量買いの自転車もそこそこやってくる。そして3時くらいになるとどうだろう、ぽちぽち売り切れ品が目立ってくる印象がある。今回はそんな人気パン屋さんのご紹介でした。

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