MURRMA COFFEE STOP(初台)/まるで友達んちにいるような

知ってるかい?

2017年7月17日、同じ日に、ロースタリーカフェが二軒同時に開店した街があるんだよ。いったいそれはどこだい?どこだと思うんだい?こんな事件は東京初だい!いや、日本初だい!

正解・初台

わりーね、わりーね、駄洒落でわりーね、ワリーネ・デートリッヒ…ということで、ディートリッヒ社製の焙煎機を使っているムルマ(Murrma Coffee Stop)なんである。もう一方のカフェ、GP Coffee Roaster はフジの焙煎機だが、こちらのレポートはまたいずれ。

MURRMA COFFEE STOP
最寄駅/京王線 初台駅 徒歩5分
所在地/渋谷区本町2-6-1クレスト初台103
電話/03-6276-1336
営業日/火〜金8:00~18:00 土日祝9:00~18:00 月休
価格/本日のコーヒー380円〜
焙煎/自家焙煎
BGM/ジャックジョンソンとか普通のカフェミュージック
駐輪場/無 店前のガードレールに立てかけて2〜3台
トイレ/ウォシュレット有 清潔 接客カウンター内側なので少々とまどう
https://murrma-coffeestop.shopinfo.jp/

ムルマのコーヒーは果実味、シトラス感があっていわゆるサードウェーブ的なものだが、ただの浅煎りではなくもう少し火を通してある。そのおかげでコクとかボディ感や甘味や、味の深みもしっかり出ていて味が多層的だ。スッキリとじっくりの2層構造を感じる。

先日飲んだコスタリカも

「焙煎、やりかた少し変えたんですよ」

ておっしゃるので

「へえー、例えば焙煎温度とか?」

「というか温度の上げ方のカーブかな、工夫してより個性が出るようにしました」

焙煎師は求道者だぜ。確かに味の複雑さが少し増えたかもしれない。浅煎り特有の果実味を消さない範囲で焙煎の技で深みも引き出す、きっと難しいんだろうね。そんなことに想いを馳せながら喫するコーヒー、こういうのが楽しいのよね。ごちそうさまでした。

初台の北、水道道路沿い、オペラシティ、新国立劇場というある意味東京の新しい顔と、不動通り商店街という東京の懐かしいフトコロ、地理的にそのちょうど真ん中に位置するムルマは、双方のカルチャーが出くわす文化の交差点だ。地元のお年寄りと有名俳優さんが、五人も入るといっぱいの小さい店内に、並んで仲良くコーヒーなんてこともある。

コーヒーの味の多層感と同様に、ムルマのカフェとしての在り様そのものが、東京の外面と内面のミクスチュアなのかもしれない。すなわち、コーヒーのクオリティは新国立劇場のオペラのように海外の物差しで測っても高い水準にあるが、その入りやすさときたら、懐かしい下町な不動通り商店街と同じように、なんというか、敷居が低い。なんといっても1人で焙煎から接客まで切り盛りされているマスターの、素晴らしいキャラと、技術と、思想が具現化したものだと思うが、この彼がまた、驚くほどのナイスガイ、ホントに感じの良いマスターだ。

初めてお邪魔したときからタカビなとこが1ミリもなく気取らないこのマスターを、私は

「1億人の弟」

と密かに呼んでいるんである。なわけだから、私にとってムルマは

「東京で最もしょーもない質問を気軽にできるカフェ」

でもある。なんでも相談室。なんかようわからんことはすぐここに教えてもらいに行っちゃう。

「スパイシーって書いてあるけど、それってこのコーヒーの後味みたいなやつのこと?」

「いやその辺はシトラスって言葉で表してるつもりなんですけど」

「あ~わからん、シトラスってそもそもなんのことなん?」

「えー!そっから?(笑)それはですね~…」

面白がって付き合ってくれるんである、本当にいつも忙しいのにごめんね。

そうそう、それからすごいのは、久しぶりに、確か10日ぶりくらいに訪れたとき

「この前お飲みになったのはエチオピアなんで今日はケニアなんかどうですか?」

などと言われてその接客プロさ加減に脱毛、いや、脱帽したこともある。私の方が覚えてないっての、そんなの。いやあなんかいつも色々お世話になりっぱなしです。

もちろんおしゃれで、多肉植物の鉢植えなんかも気の利いた、いわゆるイマドキのカフェなんだが、気取ってない。いい意味でサードウェーブ「ぽくない」んですわ。駄菓子屋に来たようでもあるし、どこかの、十年以上事件のない平和な町の駐在所にでも来たようでもある。そんな雰囲気と、新しくて素晴らしいコーヒーのクオリティのイマドキな感じが、違和感なく共存するするカフェは稀有なんじゃないかしら。

そのせいか、地元の馴染みのお客さんが割と多い印象。通勤途中にうまいコーヒーを求めて立ち寄るスーツの人々に混じって、平日午前中からそういう方々が結構おられる。

先日もご近所の上品な紳士、人生の先輩、私の親の世代、

「僕はね、コーヒーのことはわかんないんだけどね、なんかここ来ちゃうのね」

なんておっしゃる

「でもここ来てコーヒーってうまいもんなだなって再発見したんじゃないですか?」

と返す私にマスターが割って入って

「いやいや、○○さんはね、ネットで調べたいことがあるとめんどくさいからムルマいって僕に調べさせりゃいいやって来るんですよ。わしゃなんでも屋か(笑)」

「だってパソコンわかんないし、調べんのめんどくさいんだよ、第一、お金かかるんでしょ?」

「お金なんかかかりませんって、あ、ていうかお金かかりそうだから僕に調べさせてたんですか!」

あははは、コントだ。

いや、だが待て、○○さん、あなたは私とおんなじだ、俺もわかんねえことあると教えてもらいにここ来てるんじゃん(笑)

というわけで、サードウェーブってなんじゃらほいっていう入門の方にもおすすめしたいカフェなんである。ブルーボトルデビュー(笑)の前に慣らしでぜひどうですか?このスペシャリティカフェでは

「あの〜、スペシャリティってなんすか?」

って訊いても全然平気。そんで教えてもらったことをヨソで受け売り、ドヤ顔すりゃあいいじゃないすか。あ、それ、まんまこのブログだ!ムルマで教わったこと「知ったか」して書いとる私のことじゃん。

で、ですな、

こんな和やかな雰囲気の中に新国立劇場に来日した出演者もひょっこり現れちゃうんである。これがこのロケーションの面白いところ。コーヒーの美味しさは世界共通ですものね。でも、実はこれはすごいことですよ。世界トップの芸術家たちが日本の「三丁目の夕日」的日常に出会う。そのきっかけがひとりのナイスガイが焙煎したコーヒー。

私は夢想するのだが

「トーキョーのオペラシティで休憩時間にコーヒー飲むなら、ムルマ行っとけ」

と世界のバレエやオペラ界の口コミで広まったとする。あの世界もそう広くはなさそうだしね。そうすれば、たとえばモーリスベジャールバレエ団のダンサーが、ふらっと訪れて常連のお年寄りと並んで仲良くコーヒーなんて事も起こりかねんのである。彼ら、夜は我々の知らないハイソで高価な「白鳥の湖」に行ってしまうんだろうが、お昼のちょっとした休憩時は我々の庶民の「スズメの池」で羽を休めてたっておかしくない。

そんな風にしてニューヨークやパリの芸術家との接点がこんなところに忽然と現れたとしたらきっと楽しいだろうな。そんな明るい予感の中で、美味いコーヒー、なんとも気持ちのいいカフェだ。

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