良い生豆、素材を生かした浅い焙煎、その結果としての果実味、ざっくり言えば酸味。世の中の思っているいわゆる「サードウェーブコーヒーの味」っていうのはそんな感じだと思う。西新宿五丁目駅近くのカウンターパーツ、この店は神保町のグリッチの支店だが、世の中のそういう理解を形にしたようなコーヒーだ。要するに
「君の言うサードウェーブって例えばこう言うコーヒーのことだよね?」
と言いながら友人に飲ませるのに最も相応しい一杯である。そして帰ってくる答えはたぶんこうだ。
「そうそう、これこれ、いやぁそれにしてもうまいね」
最寄駅/地下鉄大江戸線 西新宿五丁目駅 徒歩2分
所在地/渋谷区本町3丁目12-16
電話/03-3378-0577
営業日/月〜金7:30~21:00 土日祝8:30~20:00
価格/朝コーヒー200円 クイック290円 ドリップ480円 おかわり半額
焙煎/自家焙煎(神保町のグリッチ)
BGM/ビッグバンドジャズから大橋トリオまでバリスタがセレクト
駐輪場/なし、店の側面か店前のガードレールに立てかけて2〜3台
トイレ/ウォシュレット有 清潔 一階バリスタすぐ横 狭い
その他/フリーWiFiあり、スタンプカード割引あり
https://www.facebook.com/counterpartcoffee/
私はカウンターパートには都合二回ガツンと打ちのめされている。カウンターパンチを二発である。一発目はもちろん初めて飲んだ時で、明るい、本当に果物のジュースのような味に打ちのめされた。当時、自分は深い焙煎には否定的で、焙煎の浅いコーヒーこそ正義と思って探し回っていた頃で、この店は自分にとって最初の「答え」だった。
けれども、ほどなく、当たり前のことに気がついたのだけれど、浅い深いは優劣ではないのだ。個性である。焼き鳥にタレと塩があるようなもんだ。新鮮な浅煎りとは別に、深い焙煎によって引き出される味の深み、まろやかさってもんがある。しかも上手な焙煎師にかかれば深煎りでも苦くない。深煎りのうまさがわかってくると、むしろ近年一気に増えたの浅煎り、自称サードウェーブ系コーヒーの方こそ
「浅きゃいいんでしょ、はい、流行りのサードウェーブいっちょあがり」
てな粗製乱造が多いんじゃないかと思えてきた。渋かったり、青臭かったりすることが多くないかと思えて来た。
まあ一種のリバウンドである。私の自転車は極浅へ向かっての猛進をやめ、中煎り、深煎りへ向かってUターンすることとなった。結果としてこれは良い選択だった。コーヒーの多様性を楽しめるようになったわけだし、飲み人としての知見がちょっと深まったんだからね。その流れで、まあ、その上でって話になんであるが、一応いろんなスタイルのコーヒーを飲んで小賢しくなって、いっちょ前にわかったつもりになったその上で、ある日、懐かしむようにカウンターパートを訪問した。
「ああ、盲信的に好きだった浅煎り、例のあの感じを懐かしんでみようじゃないかいただきま……、ふごっ、やっぱすんげえうめえじゃねえかこの野郎、ふんが~!」
これが二発目のカウンターパンチ、がつんときました、心してお受けしましたんである。やっぱりうまい。少しはあの頃より舌も肥え、違いのわかる男ダバダ~♫になった今ならわかる、うまい、ああわかるぞよ、ただの浅煎りじゃねえってことが、兄弟、俺にはわかるぜ、わかっちまうぜ、なんである。
気がついたのは、一発目当時の自分を「これが一番うまい!」と思わしめたのは、焙煎の浅さによる果実味のインパクトだけではなかったということだ。むしろ「浅いのに」の部分である。浅いのに甘味があるとか、浅いのに深みを感じるとか、青臭くない、水っぽくない等々、このコーヒーは果実味の先制攻撃でこちらに強い印象を与えておいて、実は深みのところをで勝負している。
で、その深みが深煎りによって得られるまったりしたそれよりも、どこかクリア、抜けの良い、スコーンと広がる感じの深み…うーむ、もはや私の文章力では表現不能なんである。とにかく、味がバランスよく配置されていて見通しがいいのだ。焙煎師やバリスタのどのような技術によってそれが生み出されるの私には到底わからないけれども、果実の酸味の向こう側に広がる味をあのころの自分は無自覚のうちに感じていたのだ、そう思えた。
さらに、まあ頭が下がるって言うか求道者だなあと思うのは、同じ銘柄の豆でも少しずつ味を変化させてきているということだ。東京は美味しいロースタリーカフェが増えたし、飲む側の「リテラシー」も上がってるだろうからそれをやってかねば生き残れないという危機意識なんだろうが、安住しないということ、これは大変なことですよ。
「ボスは厳しい人です」
とはバリスタさん談。お会いしたことはないんだが元ポールバセットで指導者をなさっていたこのカフェの大将、Q グレーダーという取得が大変難しい、コーヒーの味を評価する専門の資格をお持ちの方。多分自分にもスタッフにも厳格ということだろう。
「Q グレーダーって並みじゃないですよ。先日もケニアに買い付けに行きまして、200種類くらいカッピングしてこの豆だっていうのをパパッと決めちゃうんですよ」
そもそも直接ケニアに行くってのが意識高ぇじゃないすか。そして200種。私は経堂のファインタイムでカッピングやらせてもらったことがあるんだけど、20種類も試し飲みして
「さああなたのナンバーワンとナンバーツーはどれですか?」
って訊かれ「あわわわわ」だったんである。いやぁわかりませんってそんなん。直前に飲んだやつとその一個前くらいしか覚えてなくて、5番目に飲んだやつと12番目に飲んだやつの違い、どっちが優れてたかなんて思い出せないっていうかわかりませんよ、みんな一緒じゃないすか、そんなもん。それが200種類でしょ、あーた、もう神々の領域です。
さあ、あとおまけ情報を駆け足で参りましょう。
まずはこの店の「早起き」
平日の開店時間が7時半(休日は8時半)だ。8時開店のカフェは多いんだけど7時半が意外に少ない。界隈じゃパドラーズとここだけであろう。この30分が特に夏場は貴重ですぞ。あ、思い出した、ヴァーヴが8時開店から7時開店に早まったんだった。要は7時台に美味いコーヒーin山手地区ならその3軒どこかでなんである。
そしてこの店の「安い」
早朝コーヒーが200円!これはすごい。そして「おかわり」が半額。これは同じもの飲まなくてもよく、要は一杯目より高いやつ注文してもそれが半額になるってやつ。ありがたや。加えてスタンプカード割引もあります。おっと、早朝コーヒーからのおかわりは半額適応されないよ。あくまで早朝コーヒー以外からのお〜おかわりが半額。
さらにはこの店の「どうでもいい情報」
極めて個人的趣味なんすけど、この店のBGM、スピーカーの右チャンネルが1階、左チャンネルが2階に配置されているんですよ。そのため偏った定位で録音されたもの、例えばビートルズとかね、ドラムが2階で聞こえて、ギターが1階なんて現象が起こる。これが中々面白い。知ってる曲に新たな発見があって楽しいんですよ。