Dear All(笹塚)/ミニマリスティックな白い部屋でキレのあるコーヒーを

旨味の正体は20世紀初頭に日本人の学者によって発見されたんだそうだ。発見もなにも、我々にはずっと長いこと旨味を感じ楽しんできた歴史がある。鰹と昆布で引く出汁から、〆の一杯の日本茶まで、日本の食卓に旨味のないものは上がらないと言ってよい。我々は旨味の信奉者なのだ。

ところで、旨味信奉者たちは無意識のうちに外来の食品にまで旨味を強いてないだろうか。コーヒーのことである。果実味、明るい酸味があって、すかーっと視界が開けるような味わいの浅煎りコーヒー、いわゆる「サードウェーブ系」のコーヒーだが、出会った頃の感動が一段落したあと、我々は結局「もっと旨味を」という基準で取捨選択をし始めてはいるのではないか。

まあ私自身そのひとりだった。やっぱり「すかーっ」の後に「じんわり」が来て欲しいじゃないすか、その方が美味しいと感じてしまう、サガってヤツでござんすよ。実際、このブログでもその両方があって美味いという文脈でのコーヒーの称え方もしてる。

そんな、産まれながらの旨味信奉者たる日本人が焙煎し、同日本人が需要者であるところの、日本のロースターリーだ。そのサガの影響を受けるなって方が無理な話だろう。焙煎師が味を微調整する日々が年単位で過ぎて行き、ふと気がつくと、どのロースタリーも旨味に配慮した似たような味に向い始めてるんじゃないか、時々そう思えたりするのだ。

Dear All
最寄駅/京王線 笹塚駅 徒歩3分
所在地/渋谷区笹塚1-59-5
電話/03-6300-0502
営業日/火〜金8:00~20:00 土9:00~20:00 日9:00~19:00 月休
価格/ドリップ550円〜
焙煎/Single O Japan, Switch Coffee
BGM/ドライブミュージック的な軽めのロックからピアノジャズまで
駐輪場/なし、店前のガードレールに立てかけて数台
トイレ/ウォシュレット有、店奥にあり普通に入りやすい
その他/エスプレッソ系は朝10時以降
http://dearalltokyo.com/

けれども、久しぶりに笹塚のDear Allで飲んだSingle O 焙煎のコーヒーで私は思い出した。果実味「すかーっ」でも旨味「じんわり」でもなく「きりっ」という第三の極があることを。エッジの部分。私の語彙ではこれを何味って説明できなくて申し訳ないんだが、かっこいい男らしい部分とでもいうか。渋さや苦味ではなく、切れ味とでもいうか。

海外発のロースタリーには、旨味やコクよりもその「エッジ」にフォーカスしているものが多いんじゃないだろうか、というのが私の印象というか仮説である。彼らはそもそも旨味信者ではなく、旨味を求める同調圧力の届かないところにいて、異なったアプローチの焙煎をしているんじゃないかと想像している。例えば、Verve、Single O、Irving Farmなどは、私にとってこれにあたる。もちろん、それぞれのコーヒーの味は複雑で、みなそれぞれに旨味やコクもあるのだが、それよりも「きりっ」の部分に私は特徴を感じている。

さて、豪州発のSingle Oである。

「世界一の朝食」ともてはやされた同じく豪州発のレストラン「ビルズ」のオーナーシェフ、ビル・グレンジャー氏曰く、

「世界一のコーヒー」

なんだそうだ。わお、大きく出ましたな。どちらもシドニーが本店ですもの、仲良くしましょうね。「仲よき事は美しき哉(武者小路実篤)」なんである。

ところで、かつてSingle Oのシドニーの焙煎所でリーダー的仕事をしていた焙煎師さんは、なんと日本人だ。そのYさん、今は日本におられ、墨田区両国に Single O Japan の焙煎所を設立してご活躍中。この両国のコーヒーについてDear All のバリスタHさんが言うには、

「Single Oの中で世界一美味いと言われているのは本国より両国」

なんだそうで、整理すると

「世界一の朝食屋さんが、世界一だと認めるコーヒーの、世界一優秀な焙煎所が、両国にあるが、ちゃんこ鍋はやってない」

という面白いことになっている。この際、墨田区とシドニー市は姉妹都市になって、シドニーにちゃんこ鍋を輸出したらよろしい。

さて、高円寺在住の私が Single Oのコーヒーを飲むために、表参道のビルズで高い朝食を食べる必要はないし、両国まで自転車で15km走行する必要もない。笹塚のDear All まで5km走行すればよいのだ。近い。15分だ。

朝8時半、いつものようにDear Allの檜の引き戸(!)をガラッと開けるとバリスタHさんが正面奥でにっこり、

「おはようございまーす」

朝の開店時間からの担当、Hさんは白いシャツが似合う、最近ちょっと花粉症が大変そう。

白いのは彼のシャツだけではない。店内、白が基調というより真っ白、壁も白いし、床は白味がかったコンクリート、花瓶も白磁器、カウンターやベンチは檜なのだが、こいつがまた白木ときたもんだ。テーブルには折々のお花も活けてあって、このミニマリスティックな空間は日本の茶室を思わせる。冬はシャキッと、夏は涼しげに、これが朝の空気にとっても似合うんだな。

面白いと思ったのは、このある意味「和」な、「わびさび」な空間の入口すぐ足元に、ギターアンプで有名なMarshallの名前を冠した、これもまた白いパワードスピーカーが置いてあって、そこからいい感じのドライブミュージックが流れていることだ。ニール・ヤングとかボブ・ディランとかジェームズ・テーラーのような。しかも、インテリアがミニマルで、床がコンクリート打ちっ放しなもんだから、このカフェの残響は深めで、この手の音楽にちょうどいいライブ感を与えている。

そんな音空間で、目の前の甲州街道を行き交う車と人々を眺めていると、まるでロードムービーの中にいるような気持ちにさせられるけど、程なく、檜の眩しい白い茶室のなかで一杯のコーヒーを喫している自分自身に意識がもどってくる。なんか素敵だよねって行くたびに思う。

Dear AllはSingle O だけではなくSwitch Coffeeの豆も扱う。そう、だから私はもう目黒への11km走行もしなくて良いのだ。かつては藤沢の27 coffeeの豆も扱っていたようだがいまはもう無い。そう、だから私は辻堂へは51km走行しなければならない。だが、遠慮しときたいんである。

走行しているとそうこうしていると、もう一人のバリスタMさんが自転車走行でやってくる。朝起きるのが苦手と公言してはばからないMさん、Hさんと学校の同級生だったんですってね。「仲よき事は美しき哉(武者小路実篤)」なんである。二人がそろってカウンターに立ったとき、それは午前10時になったことを意味する。長居をしてしまったね。ごちそうさま!

それじゃあ小ネタin笹塚いってみよお!

Dear All を出て向かい、甲州街道の反対側がとてもシュール。キリスト教の牧師さんの説教を聞いたらおとなりへ、聖地メッカを巡礼し、しかもそこでイスラム教が禁じるお酒をいただくっつうね、幾重にも背徳的な行為をお気軽にお楽しみいただけるステキな一角なんである。アテは牛肉でねなんて怖すぎてわたしゃ言えません。

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