
日本固有種の喫茶店とちがい、カフェというのは欧米文化のシロモノなので、その従業員による接客もバタ臭いというかアメリカナイズドされされているというか、それでいい。私はそう思う。特に開店当初はイタいくらいの、こっちが照れちゃうくらいの突き抜けた帰国子女度でちょうどよい。それが一年たつ頃には、流石にバカバカしくなるのか、程よく疲れてきてくるのか、あるいは板についてきて、実に感じのいい洋風接客になる。逆に最初からほどほどで始めると経年変化後はフツーの「アガらない」空間ができてしまう。
それにしても、なんだこのカフェの、洋風な、ちゃんとした教育を受けました的な、頭脳明晰だがウラがなく、人を見る目が性善説で、しかも垢抜けてるというこの感じはどっからくるんだろう。
リーダー格のバリスタさんは紳士の嗜みとしての笑顔が板について、後輩スタッフたちもねじ曲がった感じがなく、みんなこのカフェとカフェが扱う商品を愛している。アイビーリーグで勉学スポーツ真面目に取り組んで来ました、大麻やったことないですみたいな育ちのよさ、ね。西海岸のフレンドリーさじゃなくて東海岸のそれなんである。ポートランドではなくボストンなのだ(行ったことないけど)。
最寄駅/副都心線 明治神宮前駅徒歩5分
所在地/渋谷区神宮前5−17−13
電話/03-6450-5755
営業日/月〜土10:00~22:00 日祝10:00~21:00 無休
価格/エスプレッソ480円〜 ハンドブリュー650円〜
焙煎/自家焙煎
BGM/オールドスクールなダンスミュージック、ピアノジャズ等
駐輪場/店前に単管パイプのロードバイクスタンドあり
トイレ/ウォシュレット有、このキャパで男女共用一器、混雑必至?
その他/一杯飲むと豆が200円割引、フリーWi-Fiあり
https://www.tysons.jp/roastery/
能城さんという方が創設し、その名も「まんま」なノージーコーヒー、その原宿にある焙煎所併設カフェはまるで巨大な城郭だ。なるほど「能城」だからか。各々方、こころして登城されるがよい。
馬、いや自転車をつなぎ、大手門をくぐり抜けると黒を基調とした薄暗い城内である。原宿能城は堅固で、まず我が行く手を塞ぐのは多角形カウンターテーブルという武者返しに囲まれた曲輪、二の丸である。守将はこの城最強の武将と思しきバリスタ奉行、矢継ぎ早にエスプレッソ系飲料を次々と繰り出す所作はまさに手練れ、只者ではないとみえる。
「たのもう、お取次を願いたい」
「これはこれは、よう参られた。今朝はいかなる珈琲をご所望か?湯気による抽出なれば拙者が承るが、湯で落とすもの、あるいは仏式加圧なれば、二の丸にお立ち寄りは御無用、まずは本丸へ参られませ、ささ奥へ、奥へ」

実はバリスタさんが非常に動きやすいようにデザインされている「二の丸」
普通にフィルターで抽出したやつを飲みたい私は二の丸を迂回して、店の一番奥に進む。本丸。 焙煎機が巨大、まるで巨大な船のタービン。三軒茶屋店や取引先のカフェで使う豆がすべてここで焙煎されているんだろうか、まるで天守閣といった威圧感である。周りでたくさんのスタッフが忙しく働いている。そんな本丸の受付で接客してくれたのは愛らしい女性のバリスタさん
「今日は何かこういうのが飲みたいとかありますか」
もちろんありますとも。だが、この質問、いつも答えに窮する。複雑なコーヒーの味を言語化するのは本当に難しいとあたしゃ何度も主張してるが、そういう素人のいい加減な表現を形にするのがプロの仕事だろうとも思うので遠慮なくテキトーに言わせていただくんである。
「明るい酸味があってコクも甘みもちゃんとあって最後にハーブみたいな後味が残るそんなのがいいです」
でまた彼女、これがまたすご~く一生懸命聞いてくれて、ほんとにかたじけない。全く馬鹿にした態度がないし、真剣な目でうなずいている。結局今日はニカラグアのOJO DE AGUA(オホ・デ・アグア)というコーヒーになった。ちなみにこのカフェにはブレンドはない。全てがシングルオリジンである。それは、ひとりの顧客に、生産者をひとり、豆の種類をひとつ、一本の線で繋いで完結したいという創業者のこだわりだ。
ところで、
「こういうやりとりは難しくないですか?」
と尋ねたら、やっぱり味の言語化のトレーニングはやってるんですってね。
毎日エスプレッソ系三種類、エスプレッソ、アメリカーノ、カプチーノの試飲から始め、その感想、今日のコメントというのを一人一人が発表するんだそうだ。後輩たちは自分のコメントを発表するし、先輩のコメントを聞きながらこの味についてはこう言葉で表現するんだなと学ぶ。…それ私も出席したい。 上手な説明は美味しいコーヒーへの近道、特急券だものね。
さて、先ほどの礼儀正しく愛らしい女性バリスタ、まず焙煎された豆を取り出して
「こんな香りです、どうですか、うわあ、なんていい香りなんでしょう!」
と嬉しそうに目を輝かせて私にも試すよう勧めてくれる。この女性はこのコーヒーが本当に好きなんだなと一目瞭然だし、こちらも一緒に楽しい気持ちになってしまい
「これは間違いなくうまい」
そうマインドがセットされてしまう。
次に、この礼儀正しく愛らしい女性バリスタ、豆をグラインダーにかけて粉にしたものをとりだして
「こんな香りです、どうですか、うわあ、なんていい香りなんでしょう!」
と嬉しそうに目を輝かせて私にも試すよう勧めてくれる。この女性はこのコーヒーが本当に好きなんだなと一目瞭然だし、こちらも(以下略
最後に、この礼儀正しく愛らしい女性バリスタ、粉を入れたフレンチプレスにお湯を入れながら
「こんな香りです、どうですか、うわあ、なんていい香りでしょう!」
と嬉しそうに目を輝かせて私にも試すよう勧めてくれる。この女性はこの(以下略
もうまずいわけねーぢゃねーか!絶対うまい!美味くないとしたらこの素直で愛らしい女性バリスタさんがただの妄想狂だっていうことになってしまうじゃないか!馬鹿野郎!そんなことたぁこのおじさんが許さん、安心し給え娘さん。
このような不退転の覚悟でさっきの「二の丸」のカウンターで待ってたもんだから、そのコーヒーが運ばれて来て実際ひとくち口をつけた日にゃ
「はあぁぁぁ美味しい」
とため息のひとつも出ること請け合いなんである。 脳がそういうモードになっとる。良家子女的目ヂカラ、恐るべしなんである。
「お久しぶりです今日は何を飲まれてますか 」
夢心地でいると、二の丸総大将、バリスタ奉行が話しかけてくれる。ハッと我に帰るワタシにお奉行は続ける。
「あぁこの豆を選んだんですね。今日はね、それをエスプレッソでも出してるんですよ」
と言うそばからちょっと試飲させてくれた
「どうですエスプレッソだと全然味が違うでしょうどうですか」
なんか意図のある味になるのね。ここを強調したいっていう明確なメッセージがある味になってる。昔はエスプレッソをシングルオリジンで出すのってあまり良くないこととされてたそうだが、そこはシングルオリジンに哲学のあるノージー、果敢にチャレンジしてきたのだそうだ。フレンチプレスは豆全体の味をオールラウンドに楽しむもの、対してエスプレッソはバリスタが考えるこの豆の個性を強調した作品である。
しかしだね、そんなことより「お久しぶり」ときたもんだぜ、嬉しいじゃないのさ、しょっちゅう来るわけではない私をよくこの多忙なバリスタさんはよく覚えているよね。土日の午後3時なんか入店できないことすらあるらしい多忙なこの店なのに…。柔らかい物腰でも記憶力の方は鬼神の如し、なんである。ほんまもんのプロフェッショナルのバリスタっていうのは接客も含めて高いレベルにあるのね。
私なんか小心者で人とにこやかに接しようとすればするほどキョドーフシンになってしまうのだが、彼らは嫌味のない柔らかい物腰がすでに完全に自分のものになっている。モテるだろうな。世界バリスタ選手権みたいなもの見たことあるけれども、それに出てくる方々はこういう皆さんであろうよ。そんなプロフェッショナルなバリスタさんが、平日午前中の少し手が空いた時になんかにゃ店先まで見送ってくれたりするんだぞ。あわわわわ、お気遣いなく、私のこと誰か違う人と勘違いしてませんか、あわわわ、恐縮恐縮、申し訳なくも気持ち良く帰りの自転車を漕ぎ出すんである。
欧米的ながら嫌味のない接客、心地よい非日常感、こういう空間を作り上げるのは時間がかかるだろう。スタバ的といえばそうだし、事実創設者さんはスタバからそのコーヒー業界キャリアをスタートされている。だがこのカフェが我々に向ける顔の表情がスタバのそれとはちょっと違うのは、多分理念のせいじゃないかなと思う。自分達のビジネスはアフリカや中南米の生産者も幸福にしていくのだという理念からくる安心感や自負のようなもの、やっぱり接客のときに自然と染み出してしまうもんなんじゃないかなって思ってる。