井の頭公園のかいぼりや、長年に渡る護岸工事のおかげであろう、近年の神田川の水質向上は目覚ましい。実際、近隣のカモさん達からも望外のご好評をいただいており、神田川にお住まいのカモさんたち、どうやらお友達を呼び寄せていらっしゃるようだ。数が増えている。
ここ、中野通りの東側、中野富士見町から中野新橋駅付近の神田川では、カモ太郎、カモ次郎、カモ三郎、カモ子、カモ美、カモ江、みなさん楽しげに遊泳中だ。んまあ、正確にいえばつい最近までそう、遊泳中だった。
もろ刃のヤイバと行っても良いのかもしれない。本郷橋付近の護岸工事(弊ブログの神田川観察日記をご覧ください)が佳境に入った4月以降、流れ出すコンクリートで水質が一時的に悪化した。そのせいか、気がつけばカモさんたちがすっかり閑古鳥さんになっておった。残ったのはカモ太郎とカモ子、神田川を見捨てないでいてくれたのはたったの二羽である。護岸工事が終わり水が元に戻った今でも、居なくなった仲間たちは帰ってこない。寂しいんである。

カモさんがたくさんいた頃
だが、しかし、なんである。捨てるカモあれば拾うカモあり、諸君、私は希望を見つけたぞ、四羽の子ガモたちをだ。せわしなく泳ぐ姿がかわええ、カルガモのヒナたちなんである。いよいよ神田川でもあの、かわいいカルガモ親子の引越しとか、集団登校のような隊列を組んだかわいい姿が見られる日が近づいているのだ。親ガモと子ガモの、カルガモ親子の、親子の、親、親、おや?お、お、おまいら一体どうした?とーちゃん、かーちゃん、いねーじゃん!
「おーい!お母ちゃんはどうしたのだ子供たちだけじゃ危ないよ〜」
と心の中で叫ぶ私の前をカモ太郎とカモ子の夫妻は、ガキどもには一瞥もくれず下流へ泳ぎ去ってしまった。ちょっ、お前達の子供達じゃなかったの?え〜!まじー?
水無月である。そして、涙雨、折からの豪雨である。
あの日以来、あの四羽の子ガモたちを見かけることはなくなった。元々他に誰も居なかったがごとく、カモ太郎とカモ子の夫婦が悠然と泳いでいるだけである。
自然ってやつは残酷じゃあ、あいつらに生きて見えることはもうないのかのお…。と思ってカルガモについて調べてみると想像以上にあの世界は残酷なのね。母親が自分のひなを間引いたりすることもあるんだそうだよ。
するとだね、なるほど、かぐや姫の「神田川」、実はカルガモの世界の厳しさをもその歌詞に織り込んでいたことが浮き彫りになる。
♪若かったぁあのぉ頃ぉ、何も怖くはなかったぁ、ただぁ、あなたのやさしさがぁ、怖かったぁ♪
若いヒナが恐れなくてはいけないのは自分を優しく庇護してくれている親ガモかもしれないのだ。深い。さすがはなんとなく風貌が鳥類っぽいみなみこうせつ氏なんである。
最寄駅/地下鉄丸ノ内線 中野新橋駅 徒歩20秒
所在地/中野区弥生町2-23-7
電話/080-4413-4416
営業日/火〜金8:00~20:00 土日祝8:30~19:30 月休
価格/ドリップコーヒー 430円〜
焙煎/Obscura、Single O、Unlimited
BGM/イージーリスニング、ポップス、稀に松田聖子なども
駐輪場/なし、店に立てかけて2〜3台
トイレ/ウォシュレットあり、店奥にあり入りやすい
その他/フリーWi-Fiあり、
営業時間等再検討中、下記サイトで確認後にお出かけを
http://trichromaticcoffee.tokyo/
トリクロマティックコーヒーを発見したのはそんな神田川沿いをゆるゆる走行中のときだった。店名、佇まい、持ち帰りもありーの、テラス席もありーの…ピンきましたな、こりゃ豆もいいの使ってるに違いないと。ふふふ、大当たりだったんである。それに、めちゃめちゃ近い。4kmもない。二日酔いでも行ける。
ところで、私は続柄を尋ねるのが不得意なんである。そもそも緊張する。
このカフェには、優しい物腰で真面目に接してくださる若いバリスタさんがいる。そしてホールには丁寧におだやかに接してくださる上品なご婦人がおられる。親子だろう。そうにちがいない。
「あの方はあなたの息子さんですか」
ご婦人にいきなりそう聞くのは危険であり不躾である。 だいたい最初から母親と決めてかかるのは良くない。カモ太郎とカモ子のことだってあったじゃない。カモ子は、あの子ガモたちのかーちゃんじゃなかった。
「よくそう言われるんですがこう見えて夫婦、姉さん女房なんですよ」
こういう答えが帰ってきたら最悪だ。潔く切腹。エスプレッソを一気に飲み干して走り去らねばならない。かといって
「あなたはあの方のお姉さんですか?姉弟に見えますが」
などと世辞を笑いでくるむ「みのもんた芸」あるいは「きみまろ芸」も持ち合わせいない私は、いつか自然に質問できるチャンスを辛抱強く待つしかないのだ。が、得てしてそういうチャンスは突然やってくるもんなんである。そんな時、緊張のあまり失言しないように、前もってセリフは用意しておいたほうがよい。想定される質問対象は息子さんらしきバリスタさんである。
「えーと、ヒナ達のお母さんはカモ子さんじゃないんですか?」
待て、その質問じゃない。今回は人間のお母さんのことだ。
「あなたのお母さんがカモ子さんなんですか?」
何を言ってるんだ私は。よく見ろ、この人はカモではない。
「とするとあなたがカモ太郎さんなんですか?」
鳥人間コンテストかよ!落ち着け!
「鳥!鳥!鳥クロマティック!」
馬鹿野郎!
などと窓際で勝手にテンパっていると突然正解がやってきた。ガラガラと扉が開き
「おはよう、今日はまだお母さんきてないの?」
とご年配の紳士。やっぱりあの女性はご母堂だったんだな。恩返し最中のカモさんじゃなかった。ほっと胸をなでおろし、さあ、落ち着いて目の前のコーヒーを飲もう。
インテリアにはこのお母様のセンスも入ってるんじゃないかと思う。ご家庭のリヴィングのようなほっこり感がある。郊外の街で、奥様が自宅を改造して始めた、お友達の溜まり場といった家庭的風情がある。それを助長するのが、ハープ独奏のCDだったり、稀に聖子ちゃんだったりするBGMで、そりゃもう、ぴゅあぴゅあリップス、なんである。
これは、近所のママ友や、おじさん達や、犬の散歩途中の方々にはとっては入りやすい雰囲気だ。そういう方々がテラス席に座ると、知り合いが目の前を何人も行き過ぎるものだから、あどーも、あどーも、と挨拶しっぱなしになる。ご近所コミュニケーションが生まれやすい仕掛けだね。
立地もナイス。中野新橋駅出て20秒、しかもフリーWi-Fiありというのは、ビジネスパーソンたちには便利。意外に近所に会社もあるみたいで、客先訪問前後に打ち合わせする営業チームもよくみかける。
そして、肝心なコーヒーのクオリティだが、諸君、うめぇんだよこれが。私にとってのこのカフェの存在価値はまず第一にこの点だ。家庭的な雰囲気にも関わらず、コーヒーはエッジの効いた提案型で、「ど」サードウェーブな豆が複数あり選択できるようになっている。素晴らしい。中野新橋という土地柄を考えれば「攻めてる」と言えるだろう。
選択肢その1は日本サードウェーブのある意味草分け、三軒茶屋のオブスキュラ。おーやったぞ!オブスキュラだ、うぇ〜い、杉並界隈で他に使ってるところが思い当たらない。どっちかっていうと用賀、二子玉川とか246方面に多い印象のオブスキュラだが、あの柴さん(焙煎師だ、犬ではない)のコーヒーを飲むために三軒茶屋まで自転車を走らせる必要がなくなった。これは大変な朗報。
続いては吾妻橋、スカイツリー足元のアンリミテッド。出たぁ、私のアンリミテッドの印象は浅煎り大魔神である。ここのエチオピアの浅煎りなんて相当個性的だもの。だいぶとんがったもの扱ってますね旦那。これはよい。アンリミテッドはこの辺だと笹塚のラグでも飲める。
さらに最近、シドニー発両国経由のシングルオージャパンの取扱いまで開始した(そのせいでアンリミテッドは減る傾向)。シングルオーについては弊ブログのディアオールの巻を読んでいただきたいんであるがキリッとうまい。
このゴージャスでサードウェーブな豆のラインナップ、これが近所の「ホステル富士」等の宿泊客を呼び、早朝から英語が飛び交う。 滞在中毎朝足を運ぶ外国人ファミリーの方々もおられるとのこと。
トリクロマティックすなわち「3原色」という名前のついたのこのカフェだが、住宅街の家庭的喫茶店に見えて実は、地元住民、ビジネスパーソン、外国人旅行者という3者にむけて、3軒茶屋発を含む3ブランドの3rdウェーブ系豆を仕込み、3人で待ち構えているという、実に巧妙にデザインされた「3」な装置だったのだ。そして、立地を考慮したこの綿密な作戦は、いまのところ極めて順調に推移しているのだ。
唯一、作戦に粗漏があったとすれば、カモさんたち率いられて10時の方向から自転車でやってきた謎のゲリラ部隊の襲撃を受けてしまったことであろう。神田川を下ってきたこの第4の勢力のボリュームはいまんとこ1名と数羽である、ってわしゃ桃太郎か。
あ、そーだ、3人って先に書いちまったけどバリスタさんと、そのご母堂、そしてもうひとり、そーだ、すんげえ最終兵器を忘れてた!
3人目の仕事人は土日限定(だと思います)美人女性スタッフでる。先の上品なご母堂とは別人物である。明るく、フレンドリーで、ホスピタリティの塊のような笑顔の女性スタッフ、こりゃもうダメ押しですよ、そりゃお店流行るわけだわよな。
さらに、彼女の英語の流暢さがただごとではなく鬼に金棒、いや、観音様にうまか棒なんである。精鋭揃い、死角なし、どんなお客さんでもカモんカモんである。
で、私、意識の低い下世話でなやつでホントすんませんが、やっぱりご関係、気になるじゃないですか。ですがこの件はすぐに判明しました。先日バリスタさんと出身地の話になって
「実家は小平なんですよぉ、今はこの人と近所に住んでますが」
普通のバイトさんではなくご家族であった。ご母堂も含め3人で家族経営されてる。これは長続きするパターンだね。ちなみに私も小平市出身なのでローカルネタで話が弾んだのは言うまでもない。
諸君、天気のいい日に、神田川を散策がてらトリクロマティックでシングルオーのケニアなんていうのはどうだろう。なんかサライみたいな提案だけど、中野坂上から、あるいは東中野から中野新橋まではちょうどいい距離なんじゃないかな。そして、その途中で、あなたが4羽の子ガモたちを見つけられたら、きっといいことが起こるだろう。